第1話 出会い
世界のTCG市場は拡大を続け、今や一大ブームとなっているカードゲーム。
その中で最も人気があるのがカードファイトヴァンガード NEOである。
世界のカードファイト人口は数億人を越え、プロのヴァンガードファイターを目指して熱い闘いが繰り広げられていた。
「よし、行こう。」
これは、ヴァンガード NEOを通じて、世界を救う物語である。
自動ドアが無機質に開き、一歩を踏み出す。
地元には何店舗かカードショップがあるが、自宅から一番近いこの「カードキャピタル」に行きたいとずっと思っていた。
「・・・」
店内は賑わっている。
それもそのはずだ。放課後のこの時間は学生も多い。土日祝を除けば一番人がいる時間だろう。
「いらっしゃいませー」
店員さんの声が聞こえた。改めてカードキャピタルに入れたことを実感する。
ただ一つ問題があった。
友達のいない僕にはファイトをする相手がいない。
仕方がないのでショーケースに並んだカードを眺めていた。
それでも僕は楽しかった。
憧れの場所。
見たかった景色。
ファイトこそできないけど、この空間には夢が詰まっている気がした。
暫くして店員さんが話かけてきた。
「ずっと眺めてるけど、欲しいカードでもあるのか?」
「いえいえいえいえ!デッキは持ってるので、、、、」
ビックリして変な返しをしてしまった。
ふと時計を見ると入店から1時間が経過していた。そんなに眺めていたのか僕は。
「そうか?じゃあ、、、おい!赤峰!相手してやれよ!」
「?」
ファイトスペースに腰掛ける3人組の1人がこちらを振り返る。
「いいですけど、知り合いですか?」
「いいや、初めて見る子だ。いいだろ。どうせ3人なんだし。」
「、、、分かりました。」
「よし!行ってこい!」
、、、勝手に話が進んでいく。
でも願ってもないことだ。ちょっと不安だけど、同時にワクワクしていた。
カードキャピタルに入っただけでなく、ファイトまでできるなんて!
「よ、よろしくお願いします。。。」
「おう、よろしく。、、、名前は?」
「騎士導ユウキです。」
「俺は赤峰ヨシキ。こっちが瀬田コウタ、それでこっちが平井ユウリだ。」
「うぃーす!」
瀬田さん、チャラい。
「・・・」
平井さん、女の子だ。おとなしそうだな。
「ファイトの経験は?」
「ないです。ルールは知ってるんですけど、、、」
「そうか、じゃあ平井、相手してやれ。」
「!」
「私ですか!?私も初心者ですけど、、、」
「何回かファイトしただろ。それに一緒に教えながらやるから大丈夫だ。」
「わかりました、、、よろしくお願いします。」
「はい!よろしくお願いします!」
気持ちが昂っていく。ずっと憧れていた。この瞬間を。
「ヴァンガード NEOでいいんだよな?そしたらまずはライドデッキを用意しろ。グレード0、1、2、3を1枚ずつ置いておく。ライドフェイズに手札を1枚捨ててそこからライドしていくんだ。」
「は、はい!」
「山札をシャッフルして上の5枚を手札に。そして好きな枚数山札の下に戻して、戻した枚数と同じ数を上から手札に加え、また山札をシャッフル。ライドデッキのグレード0のカードをVサークルに裏向きでセットして準備完了だ。」
淡々と進んでいく。
ーーー昂っているとは言ったけど妙に落ち着いてもいる。何故?
楽しみなのは変わらない。でも何故か。
この気持ちを表現できない。
「イメージしろ。お前たちは惑星クレイに降り立ったか弱き霊体。今からその身にユニットを宿し、ファイトという名の闘いを始める。勝ち負けが全てじゃない。全力で闘い相手を認め合う。」
「でもまぁ、気楽にいこーぜ。・・・熱いファイトを。」
「はい!」
「はい。」
、、、平井さんは落ち着いている。いや、緊張してるのかな?
「じゃあいくぞ。」
「スターダスト・トランペッター!」
「忍獣イビルフェレット。」
ーーー始まった。
「ぼ、僕の先行ですね。ドロー。手札を捨ててライド。小さな賢者マロン!」
「お!ロイヤルパラディンだな!かっこいい〜!」
「スターダスト・トランペッターは先駆で移動します。マロンのスキル!手札を1枚捨てて1枚ドロー。ターン終了です。」
「なんだ。ちゃんとできるじゃねーか。」
赤峰さんが驚くのも無理はない。きっと一から教えるつもりだったのだろう。
ヴァンガードを始めたくてずっとイメージはしていた。いつか友達ができてファイトする日を夢見て。
だからルールは頭に入ってる。
うん、いける。このロイヤルパラディンたちと一緒なら。
「私のターン。見習い妖怪ササメユキにライド。イビルフェレットは先駆で移動。ササメユキのスキル。山札の上7枚からシラユキを手札に加えます。」
「お、平井ちゃん順調だな!」
節々で合いの手を入れてくる。
瀬田さんは実況向きな性格のようだ。
「では、ササメユキでヴァンガードにアタックです。」
「えーと、、、」
「まぁ、最初はノーガードでいいんじゃねーか。ダメージがあると強力なスキルも使えるし。」
「ありがとうございます。ではノーガードで。」
「ドライブチェック。トリガーなし。」
ダメージチェック。こちらもトリガーなしです。」
「ターンエンドです。」
「僕のターン。沈黙の騎士ギャラティンにライド!スターダスト・トランペッターのスキル!CB、自身をソウルへ。山札からギャラティンをスペリオルコール!」
「アタッカーを出してきたな!山札からのスペリオルコールはロイヤルパラディンの強みだぜ!」
「ヴァンガードのギャラティンでササメユキにアタック!」
「ノーガードです。」
「ドライブチェック!トリガーなし。」
「ダメージチェック。ゲット、クリティカルトリガー。効果は全てヴァンガードに。」
「タ、ターン終了です。」
「私のターン。氷牙姫ツララヒメにライド。スキルで手札からシラユキをスペリオルコール。イビルフェレットのスキル。CB、自身をソウルへ。Rと同名のカードをスペリオルコール。ヴァンガードのシラユキでギャラティンにアタック。」
「ノーガードです。」
「ドライブチェック、ゲット、クリティカルトリガー。パワーをRのシラユキに、クリティカルはヴァンガード に。」
「!!」
「ダメージチェック。ゲット、ドロートリガー。パワーはヴァンガード に。2枚目はトリガーなしです。」
「シラユキでヴァンガード にアタック。」
「ギャラティンでインターセプトします。」
「ターンエンド時、2体のシラユキは手札に戻ります。」
ーーーむらくも。同名のカードをスペリオルコールして闘うトリッキーなデッキなのに使いこなしてる。
平井さん、とても初心者とは思えない。
「僕のターン。」
「、、、行こう。一緒に。」
「?」
「立ち向かえ、僕の分身!ライド、騎士王アルフレッド!!」
「!!」
「イマジナリーギフト!、、、ってどれを獲得できるんでしたっけ?」
「、、、しまらねーな。ギフトはフォース、アクセル、プロテクトから自由に選択できる。自分に合うやつを選べ。」
「あ、ありがとうございます。ではフォースを選択してRに!」
「アルフレッドのスキル!CB2、グレード3、2、1、0のカード1枚をずつスペリオルコール!さらに手札からコール!」
「うおー!えげつねー!一気にフル展開かよ!」
「アルフレッドは自分のRの数1枚につきパワー+2000できます!パワー+10000!」
「アタックです!」
「ガード。」
〜〜〜
「ターン終了です。」
平井さんのダメージは5。次のターンが来れば勝てる!
「私のターン。」
「夢幻の風花シラユキにライド!」
きた。平井さんのエースカード。
「イマジナリーギフト・プロテクトを獲得します。」
「?」
あれ?
フォースかアクセルで攻めてくると思ったのに。プロテクトなのか。何か意図があるのだろうか。それとも、、、
「シラユキのスキル。SB2、相手のユニット3体のパワー−5000します。」
平井さん、スキルを駆使してかなり展開してきた。でもアクセルもフォースもないからシラユキの−5000があってもここは凌ぎ切れる!
「アタック!」
「ガード!」
「、、、アタック!」
「ノーガード!」
「ツインドライブ!、、、トリガーなし。」
「ダメージチェック!クリティカルトリガー!効果は全てヴァンガード に!」
〜〜〜
「ターンエンドです。」
ダメージトリガーもあり、かなり手札を温存できた。このターンで決める!
「僕のターン!もう一度立ち向かえ!僕の分身!ライド、騎士王アルフレッド!!イマジナリーギフト・アクセルを選択です!」
「おお!決めにきたな!」
「アルフレッドのスキル!CB2、グレード3と2を1枚ずつコールします!3枚以上コールしなかったらCC1できます!」
「さらにアルフレッドのスキルで自身にパワー+12000!相手のVがグレード3以上ならカードの効果で登場したユニットにパワー+3000!」
「完全ガード。」
「ツインドライブ!ゲット、クリティカルトリガー!効果は全てRに!セカンドチェック!ゲットヒールトリガー!効果は全て別のRに!」
「!!」
「トリガー2枚、、、なんか持ってんじゃねーかこいつ笑」
「、、、」
胸が熱い。なんでもない、ただのファイトなのに、こんなに楽しいんだ!赤峰さんの言う通り、勝ち負けじゃない、このファイトを通じてアルフレッドと繋がっている感覚。
ーーーこれを、僕はこの感覚を、味わいたかったんだ。ファイトは1人ではできない。誰かと一緒に、本気でぶつかり合う。こんな素晴らしい世界があったんだ!
「アタックです!」
「ノーガード。ヒールなしです。」
「、、、か、勝った?」
「やるじゃん!ユウキ!」
瀬田さんが僕の背中を叩きながら声をかけてきた。少しむせそうになったが、そんなこと気にも留めないくらいの充実感が僕を包む。
「ありがとうございました」
「・・・ありがとうございました。」
平井さんは少し俯いているように見える。そこに声をかけたのは赤峰さんだ。
「負ける時もあるだろ。大事なのは次勝つために何故負けたのかを考えることだ、平井。」
「、、、はい。」
「よーし!次俺とファイトしようぜ!ユウキ!」
「はい!よろしくお願いします!」
〜〜〜
「ありがとうございましたー。」
店員さんの声を背に店を出る。辺りはすっかり暗くなっていた。
「じゃあ!また明日な!ユウキ!」
「皆さん、明日もいるんですか?」
「当たり前だろ!こちとりゃほぼ毎日、ヴァンガードNEOやってんだよ!」
「平井さんも?」
「私は最近始めたばかりだけど、、、都合のいい日は赤峰さんと瀬田さんに教えてもらってます。」
「そういえば皆さんはどういう関係なんですか?」
「俺と赤峰ともう2人で昔、チームを組んでたんだ。でもその内の1人がチームを離れたいって言い出して、向こうに1人付いて、俺が赤峰に付いてったってわけ。」
「そうだったんですね!どうりで仲がいいと思いました!」
「コウタとはただの腐れ縁だ。」
「平井さんは?」
「急に赤峰が連れてきた。割と最近な。」
「ど、どういうことですか!?」
「変な言い方をするな!」
「私、学校でイジメられてたんです。それを見かねた先輩の赤峰さんが仲間に入れてくれました。そこからイジメはなくなって今はお二人にヴァンガードNEOを教わってます。」
「まぁ、そういうことだ。まったく。」
「そうだったんですね。。」
「よし!メンバーもこれで4人!3人でも大会には出られるけどやっぱ4人の方がいいよな!赤峰!」
「そうだな、3人で出るつもりだったが、4人の方がいい。」
「!!」
「僕、大会出るんですか!!!?」
「私、大会出るんですか!!!?」
「当たり前だろ!これからビシバシ鍛えていくから覚悟しとけよ!笑」
ーーーとんとん拍子で話が進む。正直付いていけてない。今日一日でいろんなことがありすぎだよ。
でも、うん、楽しかった。
世界が変わった気がした。今まで見ていた景色に色がついたような感覚。これからどんなことが待っているんだろう!
-to be continued-